時長ゼミの研究内容

 

時長研究室では、気候変動や地球温暖化などの長期的な気候変化における海洋の役割を解明することを目標とし、大気と海洋の相互作用に関する研究を行なっています。主な研究手法は、船舶観測・人工衛星観測・大気海洋再解析データを用いた統計データ解析や、気候モデルを用いた数値シミュレーションとそれらの解析です。これらを駆使することによって、メカニズムの解明や予測研究を行います。

熱帯大気海洋結合現象と気候への影響に関する研究

エルニーニョ現象やインド洋ダイポール現象に代表される熱帯海洋の大気海洋結合現象は、大規模な大気循環の駆動源となる熱帯域の降水変動を変調することによって、世界の様々な地域で異常気象や異常天候を引き起こすと考えられています。近年の研究では、エルニーニョ現象がその空間分布や時間発展の違いによって、幾つかの種類に分類できることが分かってきており、それらの違いが気候へどのような影響を及ぼすのかについて研究を進めています。

長期的な気候変化パターンの形成に関する研究

地球温暖化が進行すると世界中で気温が上昇すると予測されており、気象庁の統計データによれば、日本の平均気温も1898年以降では100年あたり約1.1℃の割合で上昇したと報告されています。一方、このような気温上昇や降水・風速・海水温の長期変化は地球上の至る所で一様に変化しているわけではありません。この空間的特徴を生み出す要因の1つに、地表面の約7割を覆う海洋と大気の相互作用が重要な役割を果たしています。また、100年間以上の観測データから信頼できる空間的特徴を検出するためには、人為的な観測誤差を極力軽減する必要があります。本テーマでは、観測データと気候モデルによる数値シミュレーションを統合的に用いて研究を進めています。

気候変化と自然変動の相乗効果に関する研究

これまでに観測された全球平均気温の上昇は単調増加ではなく、年代によって気温上昇のスピードが加速したり、逆に減速したりしてきました。これは地球温暖化に伴う気温上昇に気候システムにもともと内在している自然変動による影響が重なったことが要因の1 つです。このような要因によって、気候モデルによる予測からは大きく外れた気候の変調が度々起こってきました。本テーマでは気候変化と自然変動の相乗効果のメカニズム解明を通して、数年から10年規模の気候予測改善に貢献したいと考えています。

 

市川ゼミの研究内容

船上ドローンによるリモセン観測

地球表面の7割を占める広大な海洋は,エルニーニョや地球温暖化などで,大きな影響を地球環境に与えています.しかし,その広大さのために,海洋の実態はいぜん多くが未知のままです.しかも,海洋の観測データには,波長数センチのさざ波から,数万キロの変動までが混在しているために,情報を有効に取り出すには特殊なデータ解析が必要になります.

本分野では,船舶係留系漂流ブイなどの現場観測データと人工衛星の観測データを解析して,海洋の変動特性について新たな観測的事実の発見を目指しています.さらに,その知見をもとに,海洋が地球環境変動に果たす役割について研究しています.

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1) 観測データの解析手法の研究

現場観測(船舶観測係留観測)では集中的な計測ができるが,時間も場所も限定されている.一方,人工衛星では広域を繰り返し観測できるが,計測が海洋表層に限られていたり,物理量を間接的にしか計測できないために何らかの仮定が必要になる.これらのデータを統合して,お互いの利点が生かせるように情報を取り出す手法を研究している(図1).
⇒⇒⇒  人工衛星搭載の海面高度計による海洋の流れの計測

図1:  漂流ブイの軌跡と人工衛星海面高度計データを組み合わせて求めた,1998年12月10日の表面流速場.日本のすぐ南に帯状に流れの速い黒潮があり,伊豆沖で蛇行しているのがわかる.その他,北海道や九州くらいの大きさの渦(中規模渦)も,多数確認できる.この画像は,約10日おきに作成できるので,黒潮や中規模渦の特徴の時間発展を追うことができる.

2) 黒潮の流量および熱流量の評価

黒潮は世界最強の海流の一つで,膨大な量の海水を南から北へ運び,北太平洋の熱の再分配に重要な役割を果たしている.本研究室は,国内外の多数の研究機関と共同して,黒潮および黒潮反流を横断する観測線で,船舶や係留系などの現場観測を行っている(図2).この現場観測データと人工衛星データを統合して,熱や水が北太平洋でどのように運ばれているかを評価する(図3).また,北太平洋全体の風応力の変動などとの対応から,どんな要因で黒潮が変動するかも研究している.
⇒⇒⇒  足摺岬沖黒潮協同観測(ASUKA観測)
⇒⇒⇒  足摺岬沖の測線(ASUKA測線)を流れる黒潮の流量の時間変化(英語)

図2: 四国沖に設けた黒潮の観測線(左)と,その赤線部分の水温(中)・流速(右)の断面図. 右図では,暖色の部分が,西から東に向かう流速を示している.これを面積積分して黒潮が輸送する海水の体積を求めると,50×106 m3/sec 程度になる.これは1秒間に福岡ドーム25杯分の海水が測線を通過していることに相当する.

図3: 四国沖に設けた黒潮の観測線(図2)を流れる1000 m以浅の東向流としての黒潮の流量(赤線)と通過流としての黒潮の流量(青線)の時間変化(単位:Sv = 106 m3/sec).現場観測データと人工衛星海面高度計データを組み合わせて求めた.数十日から数年にわたるさまざまな変化が確認できる.

3) 中規模渦の伝播特性と熱・物質交換の解明

海洋表層の変動の多くは,「中規模渦」と呼ばれる巨大な擾乱として,ゆっくりと西に伝播する.その際,渦は周辺の物質を有効に拡散したり,渦自身とともに水塊を移動させる.人工衛星データの解析を行うと,これらの渦が周辺海域にどのような影響をもたらしているかを評価できる(図4).本研究室では,中規模渦の効果を日本の沿岸域などで具体的に見積もっている.さらに,それらの伝搬特性や発生源などを明らかにしていくことで,長期的な海況予報に役立てることを目指している.

 

図4:  人工衛星海面高度計による海面高度の測定の模式図(左).こうして得られた海面高度から,那覇の潮位変動との相関係数の分布が求まる(右).那覇の潮位変動は,九州全域が入る程度の広大な海域で相関が高いことが分かる.さらに,黒潮の影響を受けて琉球列島の西側のみが引き伸ばされた形状となっていることも分かる.